注意:この物語はフィクションです。実在する人物・団体・ソフトウェア・テキストエ
ディタとは一切の関係がありません。宗教論争をする意図もありません。
注意:この物語を読んだところで、テキストエディタの知識が付くわけがありません。
物語中に存在するテキストエディタのネタはオマージュ程度であり、知っている人がほ
くそ笑む程度のものです。期待しないようにしましょう。
注意:この物語は皆の反応を見るためのテスト版であり未完成です。話の内容は予告な
く変更される可能性があります。
「ルールを守って楽しくエディット!」
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Scene 1
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時はエディタ暦 2XXX 年、古代種族プログラ・マーと呼ばれる人々は古代兵器テキスト
エディタを用いて世界を支配していた。Vim, Emacs, Sublime Text……。使用するテキ
ストエディタにより大きな派閥が生まれ、どのテキストエディタを選択するかが国家の
存亡すら左右する。そんな時代も存在した。だがプログラミングの自動化技術の発達
により、存在理由を失ったプログラ・マーは滅びてしまう。
それに伴ないテキストエディタも永遠に失われる、かと思われていた。
しかし、テキストエディタは皆が楽しめるスポーツとして独自の進化を遂げる。
これはテキストエディタを極めることに命を掛ける、少年少女たちの物語である……。
「どうしたの、じっちゃん」
朝、僕は久しぶりにじっちゃんの部屋に呼び出されていた。
じっちゃんはいつにもなく真剣な眼差しで僕を見つめている。
「修よ……。お前はそろそろエディタ使いとして一人前にならんといかん。今日はお前
に威武川家に代々伝わるエディタを授けようと思う。これがそのディスクじゃ」
「古っ! 何年前のディスクだよ、これ。よく今まで残っていたよね」
「ワシもこれが何年前からあるのかはよく分かっておらん。ワシが受け継いだときに、
こいつはすでにボロボロじゃったからの」
僕とじっちゃんの年齢差を考えると、ざっと 50 年以上は余裕で経過していることにな
る。
「まぁいくら古くても動けばいか。よーし、自分の部屋で起動しちゃうぞー」
「あ、話はまだ終わっておらんぞ。そのディスクは……」
じっちゃんが何か言っていた気がするけど、ディスクに夢中だった僕は気付かなかっ
た。このディスクとの出会いが自分の運命を変えてしまうとは知らずに……。
よし、自分の AR 端末にディスクをセット、電源を入れる。
システムの起動が開始し、目の前の AR スクリーンにディスクの内容が写し出される。
さてどんなエディタやコマンドがインストールされているのかな。
「あれっ……」
このディスク、ロックがかかってら。ロックされているなら、事前に教えてくれればい
いのになぁ。仕方ない、じっちゃんのところに戻ってパスワードを聞いてこよう。
僕は端末をそのままに、一度部屋を出ようとした。そのときだ。
突然目の前が真っ暗になった。
暗闇のなかで聞き覚えのない低い声が響いている。
『我の名は暗黒美夢王。我を目覚めさせたのはお前か……?』
暗黒……美夢王(ダークビムマスター)? ひどいネーミングセンスだ。
こういう変わった名前を付けたがるのは、厨二病の人特有らしいと聞いたことがある。
この人は典型的な厨二病患者みたいだ。
「君はどこから話し掛けているの」
『ふむ。質問を変えよう。お前にとって、テキストエディタとは何だ』
「……」
なんて自分勝手なやつだ。僕はとりあえず無視を決めこんでいた。
『お前にとって、テキストエディタとは何だ』
「……」
『お前にとって、テキストエディタとは何だ』
「……」
『お前にとって、テキストエディタとは何だ』
『お前にとって、テキストエディタとは何だ』
しつこいな。仕方ないので答えておくことにする。
「大事なパートナー……かな」
『ふむ、悪くない。ずっと閉じこめられているのも飽きていたところだ。これ よりお前
に付いていくこととする』
僕に付いてくるだって? どういう、意味なんだろう……。
意識はそこで途切れた。
部屋は元のままだった。
「あ、ディスクのロックが解除されてる。ラッキー」
さっきロックされていると思ったのだけど、自分の勘違いだったのかもしれない。
じいちゃんに聞く手間が省けた。
「さてメインエディタはと、V…I…M…。Vim!?」
Vim、それは別名千年エディタ。千年以上の歴史を持つからそう名付けられたらしい。
一時は世界一のユーザ数を誇っていたんだけど、あまりのソースコードの複雑さによっ
てメンテナンスができなくなり、滅んでしまったと伝えられているんだ。もう Vim のバ
イナリもソースコードも残っていないらしい。それがなぜ、じっちゃんの持っている
ディスクにあるんだろう。
僕はふと時計を見る。
「もうこんな時間。早く学校に行かないと遅刻だぁーーー!」
そのまま学校へと向かうのだった。
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Scene 2
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僕の名前は威武川修(いぶかわ しゅう)。テキストエディタを専門に学べるエディタア
カデミアに通う、普通の高校生だ。ちょっと普通と違うところといえば、みんなより
テキストエディタに興味があるってことカナー。
僕のディスクにインストールされた Vim。これを使って、きっと千年エディタの秘密を
解き明かしてみせるんだ。
「修、何をニヤニヤしているんだ? 気持ち悪い」
彼にも今日の僕がちょっと違うことが分かるらしい。なんてったって、今の僕は Vim 使
いなんだから。Vim使いはつらいなーー。朝から人気者で困っちゃうなーー。
まぁ、彼にVimの事を知らせるのは後でもいいよね。今は誤魔化しておくことにした。
「えへへ、何でもないよー」
この人は派戸能人(はど のうと)君。notepad 使いなんだ。僕とは別のクラスなのに、
最近よく絡んでくるんだよね。
「今月号のエディマガ見たか?」
「あ、見てないや」
そういえば、発売日は昨日だったっけ。買ってはいたんだけれど、すっかり忘れていた
よ。朝はいろいろあったし……。
「今回は Sublime Text 特集だってさ」
「Sublime Text? うーん、知らないエディタだね」
「雑誌が特集するくらいだからな。最近使用者増えているらしいぜ」
「ふーん」
正直、Vim のことで頭が一杯な僕には他のエディタに対して興味が持てなかった。
Vim可愛いよVim
「こらこら、席に付けーー」
この人は海(かい)先生。vi/Vim 系のエディタを使う人が集まる V(ブイ) 組の担任だ。
先生も昔は vi 系のエディタを使いこなしていたらしい。
「今日は転校生を紹介する。Sublime Text 使いの差部来夢さんだ」
「よろしくお願いします」
「なんで、Sublime Text 使いが V 組に?」
実は、エディタアカデミアでは使用しているエディタによって組が分かれている。
ここV組はvi/Vim用のクラスなんだけど、Vimが失われた現在では、vi組のようになって
しまっているんだ。僕もこのVimを手に入れるまではvi使いだったし。
「いろいろあってな……」
(買収だ……ざわざわ)
先生が肩を落とす。
やはり、よほど強引な手を使ったらしい。なんでそこまでしてV組に入ろうとしたんだろ
う。お世辞にも、現在 V組はそれほど人気のあるクラスではない。
「それでは、来夢さん。自己紹介を」
「こほん。差部来夢です。皆さんに私がこのV組に入った理由をお教えしておきましょ
う。私の使用エディタはSublime Textですが、Vim の後継者でもあります。なぜなら
ば、Vimモードを備える Sublime Text こそが Vim をも越えるエディタだからです」
Sublime Text 使いなのに、この人は何を言っているんだ。かかわり合いにならないよう
にしよう。
少女の突飛な主張に騒がしくなる教室。担任もその騒動を止めるのに苦労してい
るようだ。
……うっ! 俺の意識は朝のときのように、とつぜん、遠のいて……。何も見えなく
なった。
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Scene 3
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我は聞きずてならない彼女の言葉に一気に覚醒、大声を上げた。宿主には悪いが、
彼はちょっと眠ってもらっている。
「ちょっと待った!」
「何ですの?」
「修くん、何をやっているんだ。座りなさい」
静止の声が入るが、我は止まらない。止まるはずがない。テキストエディタの平和を守
る、それが我の使命だ。
我は声高々に宣言する。
「人にはエディタ選択の自由がある。お前が何のエディタを使用しても構わない。だ
が、『自分こそがVim の後継者』との主張には異議を唱えさせてもらおう」
「誰なの、あなたは」
名を尋ねられたら、答えざるをえない。
「クックック……。我こそは、Vimの真なる後継者。使用エディタは本物のVimだ。そう
だな、暗黒美夢王 (ダークビムマスター)とでも名乗っておこうか」
(なんか始まったよ……ざわざわ)
(Vim? 本物?)
(後継者とかマジかよ……)
(新手の寸劇じゃないの)
「それでは、どちらが Vim の後継者に相応わしいか勝負です!」
転校生の少女、来夢はカバンより自分のディスクを取り出す。
「良いだろう、受けてたつ」
我もディスクを取り出す。我が半身(Vim)よ、出番だ。
そして教室内で勝負が始まる。もはや周囲の皆は止めても無駄だと諦めた様子であった。
むしろ積極的にヤジを飛ばしている。まぁこれくらいないと雰囲気は出ないだろう。
肩慣らしには丁度良い。
バトルエディターズの試合は 自分のエディタとコマンド群をイン ストールしたエディ
タディスクを用いて行う。古代においては、液晶モニターと呼ばれ るものを用いてエ
ディットしたようだが、現代では場所を選ばず持ち運びもやり易いAR モニターが主流で
ある。
「エディタディスク セット!」
「メインエディタ 実行開始!」
「AR モニター リンク完了!」
「「編集(エディット)!」」
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Scene 4
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バトルエディターズのルールに従い、互いのエディタプレイヤーは己の分身となるメイ
ンエディタを実行し、ディスクよりコマンドを 4 つメモリ上にロードする。双方の EP
(エディタポイント)の初期値は 4000。バトルエディターズではこれを 0 にしたプレイ
ヤーの勝利となる。
- TURN 1 -
来夢:EP 4000 メモリ 4/8 メインエディタ Sublime Text2
美夢王:EP 4000 メモリ 4/8 メインエディタ Vim
「先行は私です。私のエディット・ターン。ロード!」
来夢が先行して、ディスクよりコマンドのロードを行う。
「私はメモリ上のSublime Text2 に対してプラグイン『Vimtage Mode』をインストー
ル。プラグインがインストールされたことにより、Sublime Text2 の機能を実行。戦闘
力を 400 Pアップさせます」
Sublime Text2 戦闘力 1100 + 400 → 1500
「先攻のこのターン、私のエディタはバトルできません。ターンを終了します」
相手はいきなり Vim化プラグインをエディタにインストールして仕掛けてきた。
自分こそがVim 使いである、という意地なのだろう。
来夢:EP 4000 メモリ 5/8 メインエディタ Sublime Text2
美夢王:EP 4000 メモリ 4/8 メインエディタ Vim
「我のターン。ロード!」
「我はプラグイン『neo-shell』をVimにインストール。プラグインがインストールされ
たことで、Vimの機能を適用する。戦闘力 500P アップ!」
Vim 戦闘力 1000 + 500 → 1500
現在のVimの戦闘力はSublime Text2と互角である。この状態でバトルをしても相手のEP
にダメージを与えることはできない。ここは相手の出方を見るとしよう。
「我はこれでターンを終了する」
「フン。まずは様子見といったところなのかしら」
- TURN 2 -
「私のターン。ロード!」
来夢:EP 4000 メモリ 6/8 メインエディタ Sublime Text2
美夢王:EP 4000 メモリ 5/8 メインエディタ Vim
「こちらから行かせてもらいます。私はプラグイン『Vimtage Mode』の機能を適用しま
す。これにより、私の Sublime Text2 は Vim としても扱うことができます。『ビム
テージ・チェンジ!』」
「さらにVimとなったSublime Text2に対して、特殊コマンド『モード変更』を適用。こ
のコマンドの機能により、Sublime Text2の戦闘力は 1000ポイントアップ!」
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|Vimtage Mode:プラグイン・Sublime Text
|このプラグインはSublime Textにのみインストールすることができる。
|機能『ビムテージ・チェンジ』 このプラグインをインストールした Sublime Text は
|Vim としても扱う。ただし、Vimのプラグインはインストールすることができない。
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Sublime Text2 戦闘力 1500 + 1000 → 2500
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|モード変更:特殊コマンド・Vim
|このコマンドの機能はVimにのみ適用することができる。
|機能『ビム・モードチェンジ』 このターンのみ、Vimの戦闘力は 1000 ポイントアッ
|プする。ただし、この機能を使用したコマンドはモード遷移状態となるため次のターン
|攻撃ができない。
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「さらにSublime Text2に対して、vi/Vim用特殊コマンド『マクロ』を適用。このコマン
ドの機能により、このターンに実行された特殊コマンドを再度適用します。再度『モー
ド変更』を適用。Sublime Text2の戦闘力はさらに 1000ポイントアップ!」
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|マクロ:特殊コマンド・vi/Vim
|このコマンドの機能はvi/Vimにのみ適用することができる。
|機能『マクロ・エグゼキューション』 このターンに実行された、「マクロ」以外の
|vi/Vimの特殊コマンドの機能を再度適用することができる。
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Sublime Text2 戦闘力 2500 + 1000 → 3500
「Sublime Text2でVimに対してバトル!」
来夢:EP 4000
美夢王:EP 4000→2000
Sublime Text2のアタックにより、双方の戦闘力の差が美夢王のEPから引かれる。バトル
エディターズにおける敗北とはメインエディタがクラッシュをしたときである。メイン
エディタはエディタ同士の戦闘に敗北してもEPが残っている限り、クラッシュを免れ
る。つまり、EPこそが自分達のライフのようなものだ。
「これがSublime Textの……いいえ、私の『Vim』の力ですわ」
「くっ……」
やはりVimtage mode前提のディスク構成になっているらしい。これを早く何とかする必
要がある……。
「私はこれでターンを終了します」
信じるしかない。自分のエディタを。我はディスクから渾身のロードを行った。
「我のターン! ロード!」
来夢:EP 4000 メモリ 4/8 メインエディタ Sublime Text2
美夢王:EP 2000 メモリ 6/8 メインエディタ Vim
(続く)
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