現在非常によく売れている Nintendo Switch だが、そのコントローラーに関する評判は よいとは言えない。Joy Con も Pro Con もよく壊れており、任天堂は欠陥品を消費者に 売りつけていると大騒ぎ、海外では「ジョイコンドリフト問題」として訴訟にまで発展する始末である。
私は本当に任天堂は消費者に欠陥品を売りつけているのか疑問に思ったのである。 あれほど子供が触っても頑丈なゲーム機の設計を行う任天堂が進んでそのようなことを 行うだろうか。
調査を進めてきた結果、ある事実が明らかになった。 最初に結論を言おう。
「Switch のコントローラーに他のコントローラーと比較して壊れやすいという証拠は発 見ができなかった。少なくとも XBox, PS のコントローラーと比較して同等の耐久性だ と考えられる。Switch のスティックの故障が話題になったのは一般人がコントローラー のスティックを酷使するほどゲームに夢中になったということであり、これは任天堂の 偉大な功績である」
そもそも、スティックの部品は PS3, PS4, XBox, Wii U, Switch 全て同じ(アルプス電 子 RKJXV1224005)である。パーツが同じなら、故障のしやすさはどう考えても同じにな るはずだ。
そして調べてみたところ、PS3, PS4, XBox, Wii U 全てに「スティックのドリフト現象 が起こっている」ことが明らかになった。 考えれば当たり前の話だが「スティックは酷使すると壊れるのである」。この事実は 「スマホは落としたら壊れる」と同等に明快である。
しかし明らかに Switch になってからスティックの故障報告が増えている。これはなぜ か、やはり任天堂の陰謀か。そんなことはない。
一つ目の理由は Switch はこれまでのゲーム機と比較してもとんでもなく売れているか らである。売れれば売れるほど相対的に故障も増えるし、話題になりやすくなるのは当 然である。Amazon で顕著だが、売れていない商品はレビューが少なすぎて評判が信用な らないという現象があるだろう。
二つ目の理由はユーザー層である。これまでの家庭用ゲーム機はゲーマー向けであっ た。Switch の場合は Wii 時代のゲームをあまりやらない層や携帯機の層まで掴んでい る。これにより、あまりゲームを遊んでいなかった層が久しぶりに熱中してゲームを やった結果 「コントローラーは故障する」というあたりまえのことに気付いたのであ る。
三つ目の理由はユーザーが遊んでいるゲームにある。コントローラーを壊したユーザー に遊んでいたゲームを聞いてみるとよい。それは「スプラトゥーン」「Fortnite」「ス マブラ」などではないだろうか。FPS ゲームや格闘ゲーム、スティック操作を頻繁に使 うアクションゲームということである。つまり Switch の登場によりカジュアル層にま でスティックを酷使するゲームが浸透した。その結果、酷使されたスティックが故障す るようになったのだ。
「スプラトゥーンは WiiU からあったのだから、Switch 固有の問題ではないのでは」 この指摘は正しい。実際に私も Wii U のスプラトゥーンユーザーがコントローラーを壊 してきた事実を聞いている。Wii U があまりに売れなかったから一部でしか話題になら なかっただけなのである。
昔から周知の事実だが、格闘ゲーマーや FPS のゲーマーは本当によくコントローラーを 壊している。一ヶ月でコントローラーを破壊するのも珍しくない。一般の人達もその領 域まで辿りついてしまったにすぎないのだ。歴史を辿るとニンテンドウ 64、ゲーム キューブのコント ローラーをスマブラプレイヤーは破壊してきている。ドリフト問題も 当然発生している。今起こっている問題となにが違うのだろうか。
「PS2 のころ、PS のころ、SFC のころはコントローラーが壊れなかった」その指摘は正 しい。しかし、当時を思い返してほしい。当時 FPS ゲームなんてなかったし、アナログ スティックを使うゲームも少なかった。格闘ゲームをやらないプレイヤーにはコント ローラーを壊すほど酷使することはなかったのではないか。FPS が盛んになるのは PS3 頃であり、PS3 の頃からスティックのドリフト問題は話題になっている。
任天堂が少なくともコントローラーについては耐久性を考えて設計されているというの は「スティック以外の故障がほとんどない」ことから明らかである。
例えば、PS4 のコントローラーはスティックの故障以外にも「トリガーボタンが壊れ る」という不具合がある。PS5 のコントローラーもアダプティブトリガーが弱く故障し やすいようだ。
XBox Elite コントローラーは LB, RB ボタンがよく故障するらしい。
しかし Switch のコントローラーの場合はものの見事にスティックの不具合ばかりであ る。サードパーティ製のコントローラーでよく見られる「ボタンが押しっぱなしになり 戻らない」「充電ができない」「ワイヤレスを認識しない」という不具合は Switch で は聞いたことがない。
これから考えられるのは「任天堂はできるだけコントローラーを丈夫に設計している が、一番壊れやすく汎用品であるスティックを丈夫にするのはスティックパーツ自体の 耐久性が上がらない限り困難」ということだ。
そして長年同じパーツが使われているのは改良されたスティックパーツが存在しないか らと考えられる。存在しているならとっくに改良されたものが採用され、任天堂のゲー ム機に限らず世の中にスティックが壊れるということ自体存在しなくなるはずである。
そもそも家庭用ゲームコントローラーはサードパーティ製のものよりしっかりと作られ ている。PC 用のコントローラーの耐久性を調べてみれば分かると思うが家庭用と比較し てもお粗末なものばかりだ。だから PC で家庭用ゲーム機のコントローラーを使う人は 多いのである。家庭用ゲーム機のコントローラーの耐久性にはほとんどのメーカーはか なわないのである。
スティックが壊れるのは現在のスティックパーツの耐久性の問題で難しい。 ならばどうするべきか私も考えたのだが、「スティック部分のみを取り外し可能にし て、簡単にユーザーが交換可能にする」ことしか思いつかなかった。 一部のコントローラーでアナログとデジタルを入れかえられるように取り外せる仕組み になっているものが存在するが、あれと同じ仕組みにするのである。 スティックのみ交換可能ならば修理が簡単で安くすむだろう。 ただしこの方法だと操作性に問題が出る可能性があるので簡単に採用とはいかない。
今回の Switch のコントローラーに関する問題についてだが、誰も嘘はついていないし 「これまでのゲーム機はコントローラーが故障していなかった」のも「Switchを使うよ うになってからスティックが頻繁に故障するようになった」のも事実であり真である。 それでも私が得られた結論は他の人が言っていることとは違っていた。 人の言うことには簡単に惑わされず、事実から真実を見抜けるようになっていきたいも のだ。
※: ちなみに、他のサードパーティコントローラーがプロコンと比較して耐久度が高いと いう事実も発見できなかった。どのコントローラーを使用してもスティックの故障は発 生するし、任天堂の認証を受けていないサードパーティ製のコントローラーだとス ティック以外の不具合が発生する可能性がある。「任天堂のコントローラーは壊れやす いからサードパーティを使おう」という理由で選択するのはオススメしない。
※: Switch などで使われているスティックパーツの RKJXV1224005 を調査した結果、昔 のものより高 耐久が謳われているパーツであることが分かった。スティックを互換品に変更すると簡 単に壊れるとか。メーカーのスペックシート上でスティック押し込み 5万回、スティッ ク回転 20 万回の耐久性能がある。 つまりメーカーはスティックの耐久性を上げる作業を怠っていたのではなく、高耐久な パーツを簡単に破壊するゲーマーの使い方がおかしい。
ちなみに今は RKJXV1224005 はディスコンになっているが、RKJXV122400R がスペック同 じで後継モデルのようだ。
スティックの耐久性能が 200 万回だとして、一年に 1000 時間ゲームをプレーしたら一 時間あたり 2000 回スティックを操作したら壊れる。 普通のアクションゲームでは毎秒スティックを操作することはないと考えられそうだ が、最近流行りの FPS や格闘ゲームでは細かなスティック操作が求められるので 1 秒 に一回のスティック操作だと容易に超過しそうである。